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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)5549号 判決

一 請求の原因1、2の事実は、当事者に争いがない。

二 右に争いのない本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、本件考案は、次の構成要件から成るものであると認められる。

A 鉄製煙突の頂部において、

B この頂部と延長状に遠心分離式の第一集塵器が取り付けられており、

C この第一集塵器は、上下開放とされる円筒状の本体外壁部を有し、

D この外壁部の外径は、上記煙突の頂部外径と略同等とされると共に、

E 前記外壁部におけるガス排出口側には集塵室が形成され、

F この集塵室は、ブローダウンパイプと接続されており、

G このブローダウンパイプは、第二集塵器及び循環ブロアを有する循環パイプと接続され、この循環パイプは、煙突の下方位置に接続されて構成されたH ことを特徴とする降下煤塵防止装置。

三 前掲甲第二号証によれば、鉄製の煙突においては、(1)煙突の内表面にできた凝縮水に排ガス中のSO2やSO3が溶けてやがて硫酸となり、この硫酸のミストが煤の成長の際の核となつて、煤が煙道や煙突の内表面で成長していくため、煙突の先端部に煤の捕集装置を取り付ける必要があるが、煙突に対する風圧あるいは地震等による曲げモーメント等の点を考慮すると、右の捕集装置は、煙突の径と同一径とすることが望ましく、煙突の径よりも大径とすることは危険であり、また、(2)従来、煤の捕集装置として、煙突の頂部に切り起し羽根等の傾斜羽根を円周方向に並べるようにして、これにより煤を煙突内に落とし、あるいは遠心分離させるようにした装置も提案されているが、この方式では特にその羽根の中心位置において風路が著しく絞られるため、肝心の煙突による上昇気流が阻止されて、煙突としての本来の機能が半減する、との問題点があつたこと、及び、本件考案は、右(1)、(2)の問題点を解決するため、前二認定のとおり、第一集塵器の外径を煙突の外径と略同等とすると共に、ブローダウンパイプの終端を第二集塵器、循環ブロア及び循環パイプを介して煙突の下方位置に接続させるとの構成にしたので、煙突に対する風圧、地震等による曲げモーメントが最大となる頂部に右の集塵器を連設しても、風圧、地震等による倒壊の危険が少なく、しかも、確実に降下煤塵を捕捉することはもちろん、右のブローダウンパイプにより下方に導かれたガスの還流により、煙突の上端に遠心分離装置を連設した構成でありながら、煙突内の上昇気流が促進され、煙突としての本来の機能が妨げられることがないという作用効果を奏するものであることが認められる。

次に、本件考案の構成要件Dの「外壁部の外径は、上記煙突の頂部外径と略同等とされる」との構成について検討するに、(1)本件考案は、前認定のとおり、鉄製の煙突の場合には煙突の先端部に煤の捕集装置を取り付ける必要があるが、煙突に対する風圧あるいは地震等による曲げモーメント等の点を考慮すると、右の捕集装置は、煙突の径と同一径とすることが望ましく、煙突の径よりも大径とすることは危険であることから、右の構成要件Dの構成を採用したものであり、(2)また、前掲甲第二号証によれば、本件考案の実施例も、第一集塵器の外壁部の外径が煙突の頂部外径と同一径のものであることが認められ、(3)更に、本件考案は、前認定のとおり、右の構成要件Dの構成により、煙突に対する風圧、地震等による曲げモーメントが最大となる頂部に右の集塵器を連設しても、風圧、地震等による倒壊の危険が少ないとの作用効果を奏するものであり、右の(1)ないし(3)によれば、本件考案の構成要件Dの「外壁部の外径は上記煙突の頂部外径と略同等とされる」とは、外壁部の外径が煙突の頂部外径と同一径であるか、あるいはほぼ同一径のものを意味するものと解すべきであり、第一集塵器の外壁部の外径が煙突の頂部外径より大径であることが一見して明らかなものは、これに含まれないものというべきである。

これに対して、被告装置は、被告装置であることについて当事者間に争いのない別紙目録(一)、(二)の記載によれば、第一集塵器3の本体外壁部6の下部6―2の外径は、煙突1の頂部外径と同等であるが、外壁部6の主要部分を占めるその上部6―1の外径は、煙突1の頂部外径よりやや大径と説明されており、かつ、同目録の添付図面には、右上部6―1の外径が煙突の頂部外径より大径であることが一見して明らかなように図示されていることが認められ、更に、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第九号証ないし第一一号証、及び被告トユキ、被告松永化学、被告大前、被告アトムがそれぞれ使用している被告装置の写真であることについて当事者間に争いのない検甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一ないし三、第四号証の一、二によれば、被告装置における外壁部6の上部6―1の外径は、煙突1の頂部外径の少なくとも一・六倍以上であつて、煙突の頂部外径より大径であることが一見して明らかなものであることが認められ、右認定の事実によれば、被告装置は、本件考案の構成要件Dを充足しないものと認められる。

原告は、被告装置の本体外壁部6の上部外壁6―1の外径は、別紙目録の添付図面によれば、煙突の頂部外径の一・三六倍にすぎないと主張するが、別紙目録の添付図面によれば、右の比率は、約一・七八倍であると認められるので、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、前掲検甲号各証によれば、右の比率は、約一・二五倍ないし一・六倍にすぎないと主張するが、右検甲号各証によつても、前示のとおり、右の比率は、約一・六倍以上であると認められるので、原告の右主張も、採用の限りでない。更に、原告は、被告装置の外壁部6の下部6―2の外径は、煙突1の頂部外径と同一径であり、上部6―1は、この下部6―2及び煙突1の頂部と一体に、これを上方に延長するように同心状に連続して形成され、かつ、煙突1と一体の構造であるから、被告装置の外壁部6は、全体として煙突1の頂部外径と略同等の範囲である旨主張するが、別紙目録の添付図面によれば、被告装置の外壁部6は、上部6―1と下部6―2とから成るものであるが、上部6―1が、下部6―2よりも数倍も長く、外壁部6の主たる部分を構成するものであることが明らかであり、かつ、前認定のとおり、外壁部6の上部6―1が煙突1の頂部外径と比べ一見して大径であることが明らかであるから、上部6―1が下部6―2と一体に同心状に連続して形成されていることなど、原告が主張するような構造を有するからといつて、外壁部6が全体として煙突1の頂部外径と略同等になるということはありえず、したがつて、原告の右の主張も、採用しえないものである。更にまた、原告は、本件明細書においては、「略同等」という用語と「同一径」という用語は、明らかに区別されて用いられているので、本件考案の技術的範囲は、同一径の範囲よりも広い略同等の範囲にまで及ぶと解すべきである旨主張するが、本件考案の構成要件Dの「略同等」とは、ほぼ同一径という意味であつて、一見して大径であることが明らかなものは含まないことは、前認定のとおりであるから、原告の右主張もまた、採用しえない。なお、原告は、被告らは、被告装置を多年にわたり設置して相当の経済的利益を挙げてきているのであるから、被告装置の危険性を自ら主張することは、信義側に反する、また、被告装置は、これまでに倒壊したり、事故を起こしたりしたことはないのであるから、その作用効果においても、本件考案との間に被告ら主張のような差異はない旨主張するが、被告らは、被告装置は、本件考案の構成要件Dの「略同等」との構成を具備しないので、本件考案が有する煙突頂部に集塵器を連設しても倒壊の危険が少ないとの作用効果を奏しない旨主張しているだけであり、被告装置が倒壊の危険性がある旨主張しているものではないことは、本件記録上明らかであるから、原告の右前段の主張は、そもそも理由がなく、また、前掲甲第二号証によれば、本件明細書には、「第1集塵器・・・の外径を煙突の外径と略同等と・・・したので、・・・頂部に上記集塵器を連設しても風圧、地震等による倒壊の危険が少なく」(本件公報三頁六欄八行ないし一四行)との記載があることが認められ、本件明細書の右記載は、本件考案が、従来の装置よりも風圧、地震等による倒壊の危険が少ないことを説明しているのであつて、従来の装置が倒壊の危険性が強い旨述べているわけではないのであるから、被告装置は、これまでに倒壊したり、事故を起こしたりしたことはないとの事実が、被告装置が本件考案と同程度に、風圧、地震による倒壊の危険が少ないことを意味することにはならないことは明らかである。したがつて、結局、原告の右後段の主張も、理由がないものといわざるをえない。

以上によれば、被告装置は、本件考案の構成要件Dの構成を欠くものであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属するものということはできない。

四 よつて、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとする。

〔編注1〕本件における請求の原因は左のとおりである。

1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。

登録番号  第一三五五四二六号

考案の名称 降下煤塵防止装置

出願    昭和五二年一一月二二日

出願公告  昭和五五年四月五日

登録    昭和五五年一一月二八日

2 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)の該当項の(1)記載のとおりである。

3(一) 本件考案は、次の構成要件から成るものである。

A 鉄製煙突の頂部において、

B この頂部と延長状に遠心分離式の第一集塵器が取り付けられており、

C この第一集塵器は、上下解放とされる円筒状の本体外壁部を有し、

D この外壁部の外径は、上記煙突の頂部外径と略同等とされると共に、

E 前記外壁部におけるガス排出口側には集塵室が形成され、

F この集塵室は、ブローダウンパイプと接続されており、

G このブローダウンパイプは、第二集塵器及び循環ブロアを有する循環パイプと接続され、この循環パイプは、煙突の下方位置に接続されて構成されたことを特徴とする

H 降下煤塵防止装置。

(二) 本件考案は、次の作用効果を奏する。

本件考案は、煤が大きく成長せしめられる煤道、煙突の最終端に第一集塵器を取り付けて、その外径を煙突の外径と略同等とすると共に、ブローダウンパイプの終端を循環ブロアを介して煙突の基部に接続開口させるようにしたことにより、煙突に対する風圧、地震等による曲げモーメントが最大となる頂部に右集塵器を連設しても風圧、地震等による倒壊の危険が少なく、また、確実に降下煤塵を捕捉することができ、更に、右ブローダウンパイプからのガスの還流により煙突の上端に遠心分離装置を連設した構成でありながら、煙突内の上昇気流が促進され、煙突としての機能を妨げることのない効果を奏する。

4(一) 被告三協は、業として被告装置を製造販売している。

(二) 被告タグチは、昭和六〇年三月ころから、被告トユキは、同五六年一月ころから、被告松永化学は、同六〇年一月ころから、被告大前は、同六〇年二月ころから、被告アトムは、同五九年七月ころから現在まで、業として被告装置を使用している。

5(一) 被告装置は、次の構造から成るものである。

a 鉄製煙突1の頂部において、

b この頂部と延長状に遠心分離式の第一集塵器3が取り付けられており、

c この第一集塵器3は、縦長円筒形の上部6―1の下端に短円筒形の下部6―2が同心状に連結されてなる上下開放とされた本体外壁部6を有し、

d この外壁部6の下部6―2の外径は、煙突1の頂部外径と同等で、外壁部6の上部6―1の外径は、煙突1の頂部外径よりやや大径とされると共に、

e 前記外壁部6におけるガス排出口23側には集塵室19が形成され、

f この集塵室19は、ブローダウンパイプ24と接続されており、

g このブローダウンパイプ24は、第二集塵器25及び循環ブロア27を有する循環パイプ26と接続され、この循環パイプ26は、煙突1の下方位置に接続されている、

h 降下煤塵防止装置。

(二) 被告装置の構造aないしhは、いずれも本件考案の構成要件AないしHを充足しており、また、被告装置は、本件考案と同一の作用効果を奏する。したがつて、被告装置は、本件考案の技術的範囲に属する。

(以下省略)

〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。

目録(一)

添付図面は、降下煤塵防止装置を示すもので、第1図は、同装置の全体図、第2図は、第一集塵器の縦断面図、第3図は、第一集塵器の平面図である。

鉄製煙突1の頂部において、この頂部と延長状に遠心分離式の第一集塵器3が取り付けられており、この第一集塵器3は、縦長円筒形の上部6―1の下端に短円筒形の下部6―2が同心状に連結されてなる上下開放とされた本体外壁部6を有し、この外壁部6の下部6―2の外径は、前記煙突1の頂部外径と同等で、外壁部6の上部6―1の外径は、前記煙突1の頂部外径よりやや大径とされると共に、前記外壁部6におけるガス排出口23側には集塵室19が形成され、この集塵室19はブローダウンパイプ24と接続されており、このブローダウンパイプ24は、第二集塵器25及び循環ブロア27を有する循環パイプ26と接続され、この循環パイプ26は、煙突1の下方位置に接続されている。

前記第一集塵器3の外壁部6の下端開口は、ガス導入口22となつており、外壁部6の内部には、前記ガス導入口22より導入されたガスを旋回させる渦巻羽根式旋回流発生体10が固設されている。

前記第二集塵器25は、循環パイプ26のブローダウンパイプ24との接続側に、また、前記循環ブロア27は、循環パイプ26の煙突1との接続側に設けられている。その他、図において5は煙道である。

この降下煤塵防止装置によれば、煙突1内を上昇する含塵ガスは、頂部の第一集塵器3内において含塵ガスが旋回されることにより含塵ガス内の煙が遠心分離されて、清浄なガスがガス排出口23より大気中に放出される。一方、前記遠心分離により、煤塵濃度の濃くなつたガスは、集塵室19からブローダウンパイプ24を経て第二集塵器25に至り、前記ガス内の煤塵が第二集塵器25により除去されて集塵され、煤塵が除去されて清浄化されたガスが循環パイプ26から煙突1の下方に供給される。

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